老健リハビリより
~自分らしい豊かな生活~
新型コロナウイルスが猛威を振い始めてから早2年になりました。
その間、ご利用者様の多くは、ご自宅に帰ったり自由に外出したりすることもできず、ご家族様など大切な方々にも会えない状況で毎日の生活を送っておられます。
一方で、先が見えない日々の中でも、週3回の個別リハビリをコツコツと続けてこられたことで、身の回りのことや心身の状態、さらには生活全体が回復された方もおられますのでご紹介したいと思います。
Aさんが当施設に来られた時は、身の回りの多くのことに介助が必要な状態でした。Aさんは元々、非常に多趣味な方で、水泳や書道、ペン習字、俳句、還暦を過ぎてからの乗馬など多くのことに挑戦してこられました。これまでの生活は好きなことややりたいこと、大切な人たちとの関わりで彩られ、非常に豊かなものでした。しかし、施設に入ってからはとても趣味などを再開する元気はありませんでした。
始めに、Aさんと面接をして今後Aさんがどのような生活を送りたいと思っているのか、どのような思いを抱いているのかを一緒に確認しました。その上で個別リハビリで取り組むことを決めました。まずは自分で寝たり起きたりすること、それから車いすを一人で漕げること。ゆっくりペースではありましたが、元々何事も根気強く努力家なAさんは、少しずつ目標を達成してこられました。
施設生活に少しずつ慣れて来られた頃、「今度は服を自分で着れるようになりたいです」「これまで俳句をしていまして。1日1句、作ってみようかと思います」などの発言が聞かれるようになりました。
個別リハビリで服の脱ぎ着を確認、難しいところは一緒に練習をしました。上手くできるようになったら、担当介護士さんにAさんの思いを伝えました。担当介護士さんは、お風呂で着替える時、なるべくご自分で行ってもらうように、現場の他のスタッフの方々に周知を図ってくださいました。
俳句も、1日1句リハビリで作ってみることにしました。次第にお一人で句を作られるようになり、Aさんに自信が戻ってきました。そこで、Aさんは担当介護士さんと一緒に月に1回作った句をデイルームに張り出して、他ご利用者様や職員の方々に見てもらうことにしました。
その後Aさんは、立ち上がりや乗り移りが上手にできることを目標に定め、それらの練習を何度も何度も根気よく続けられました。今では担当介護士さんからもお墨付きをもらうぐらい、安定してできるようになっています。ご入所時に比べると、身の回りのことを手伝ってもらうことが減ってきて、ご自分でできることが増えました。
Aさんは今、トイレに行ったときに自分でズボンの上げ下げをするという目標をお持ちです。そのため、個別リハビリでは、リハビリ室で下衣に見立てた練習用スカートを活用したり、実際のトイレで練習や評価を行ったりして、ズボンの上げ下げが上手になるように日々練習しています。そして、実際のトイレの時には、まずはズボンを上げるところからAさんご自身に行ってもらっています。
Aさんは最近こう仰いました。
「毎日が楽しいです。家が一番だけど、ここはここで良いです」
「他のご利用者様ともお話ができますしね」
実際、同じ俳句が趣味の方と話をしたり、親戚やご友人に葉書を書いたりと、Aさんの生活リズムや新しいつながりができてきました。
コロナ禍を悲観し過ぎず、ご自分の今できることに目を向けて取り組んでこられたAさんは、お体の回復はもちろん、心持も変わり、ご自分でできることが増えました。何より、少しずつ生活に変化がみられ、Aさんらしい豊かな生活に近づきつつあるように感じています。
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